【ニュースレター】ヤマハ船外機の信頼性の礎「幻の黄帽子」を62年ぶりに復元
~性能を再現し、その技術とスピリットを次世代に継承。ヤマハマリーナ浜名湖の協力で実現~

不動機を丁寧に分解し、部品の使用可否を選別。使用できるものは洗浄や補修を受け、
補えない部品は現物を徹底的に研究することで複製した
「技術者の想い」を紡ぎ、次の世代へつなぐ
「私は以前、海外のマリン市場を担当していたのですが、南米や中東の国々のインポーターで、この『PC-3』の歴史展示に出合ったことがあります。ルーツを大切にするという点においては、私たち日本人より諸外国の皆さんのほうが意識が高いのかもしれませんね」
そう語るのは、ヤマハマリーナ(株)の鈴木雅文社長です。同社のサービス部門が約一年かけて蘇らせた1963年発売の船外機、"ヤマハの黄帽子"と呼ばれた「PC‐3」を前に、感慨を込めてそう話してくれました。
世界の水辺で活躍するヤマハ船外機――。その「信頼の礎」を築いた60年以上前の製品が見事に復元され、現在、当社の企業ミュージアム「コミュニケーションプラザ」で来館者の目を楽しませています。
コミュニケーションプラザの担当者から、「創立70周年を機に、外観だけでなく性能も蘇らせたい。苦労を重ねた技術者の想いを紡いで次の世代につなげたい」と、ヤマハマリーナ浜名湖に相談が持ち込まれたのは昨春のこと。普段はマリーナに停泊するオーナー艇の整備を行っている内田尚さん(サービス課)や、常駐サービス指定店の坪井航さんにとってもこれは本業ではありません。それでも、声を揃えて「やりがいのある仕事。やるべき仕事」と、この大役を引き受けることとなりました。

火入れ(エンジン始動)のセレモニーを終えた「PC-3」を囲み、
達成感いっぱいで談笑する内田さん、鈴木社長、坪井さん(左から)
達成感いっぱいで談笑する内田さん、鈴木社長、坪井さん(左から)
バラして実感した「モノづくりの伝統」
使命感を持って引き受けてはみたものの、朽ちかけた船外機を復元するのは容易なことではありません。「当時を知るOB技術者に助言を求めたり、図面や資料の提供もいただいた」と内田さん。坪井さんも「ゴムの劣化などはどうしようもないのですが、それでも(新たに部品を作るのではなく)できる限りオリジナルの部品を再生して復元したいと考えた」と振り返ります。「腐食したネジを1本外すのに半日以上」、「手描きの図面や残された資料も難解」......など苦労話は尽きませんが、それでも二人の表情はじつに明るく充実したもの。その理由の一つとして、復元のプロセスに多くの貴重な発見があったことが挙げられます。
「エンジンを開けて驚いたのは、シリンダーがスリーブレスだったことです。この時代に、スリーブレスを可能にする加工精度があったことに心底びっくりしました」と坪井さんが言えば、「海で使う船外機は、一つの故障で命にかかわる。材料選びや構造の工夫に、いまも受け継がれる絶対的な信頼性へのこだわりを感じました」と内田さん。そして「ルーツを知り、残すことはやはり大切」、「先人の想いやチャレンジ精神を感じることができた」と、このレストアプロジェクトを振り返りました。
エンジンを始動したのは陸上での一度だけ。「パラパラッという感じの小気味いいサウンドだった」ということですが、準備が整えば「ぜひ水の上でその推進力を体感したい」と、密かに計画を進めているそうです。

沿岸漁業のパートナーとして日本の津々浦々でヒットした「PC-3」は、当時、水路や運河などの海上交通でも活躍した
(1964年撮影/2018年2月にライフジャケットの着用が義務化されました。乗船時には必ずライフジャケットを着用してください)
(1964年撮影/2018年2月にライフジャケットの着用が義務化されました。乗船時には必ずライフジャケットを着用してください)
■広報担当者より
当社製船外機の第1号製品は7馬力の「P-7」(1960年)。しかし製品の信頼性にはまだ課題を抱え、漁業従事者の皆さんの支持を得るには至りませんでした。ヤマハ船外機を日本の津々浦々に広めたのは、その翌年に発売した3馬力の「P-3」(1961年)と、クラッチを付けてさらに扱いやすくしたこの「PC-3」でした。女性デザイナーの起用による丸みを帯びた黄色い燃料タンクで親しまれ、「ヤマハの黄帽子が日本の沿岸漁業の風景を変えた」と伝えられています。私もマリン設計畑の出身なので、名機「PC-3」がボートを走らせる姿を思い浮かべるだけでワクワクしてきます。
本件に関するお問合わせ先
コーポレートコミュニケーション部 広報グループ
本社:0538-32-1145 / 東京:03-5220-7211
関連リンク
ヤマハ発動機企業ミュージアム コミュニケーションプラザ
https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/